河野 和彦
要旨:大人の発達障害というものがあり、大人になってから社会人としての問題が浮き彫りになる患者が、数パーセントの頻度で国民にいることが知られるようになった。
発達障害の注意欠如多動性障害(ADHD)は、記銘障害のためアルツハイマー型認知症(ATD)、アスペルガー症候群(AS)は、易怒やこだわりに強さからピック病と誤診されやすい。
レビー小体型認知症(DLB)の4割以上がそもそもADHDだったという衝撃的な報告もあり、幼少期の発達障害から数十年にわたるブラックボックスを経て発病する認知症がどのような生物学的かかわりを持つのか研究途上である。DLBとピック病は、過去にうつ病圏だった患者が多く、一方ATDは精神病との関連が薄い。
発達障害は遺伝性があるため、発達障害+認知症を介護している子や孫は発達障害である可能性が一般より高いと考えられる。発達障害は扁桃体の脆弱性から精神的ストレスに弱いため、介護され介護する生活によって精神安定性が破綻するリスクが高く、介護者の精神病理も把握して福祉サービスにあたる必要がある。
認知症医療には発達障害の知識が欠かせないことが、ここ5年で大きくクローズアップされるようになってきた。
キーワード; 発達障害、ADHD、レビー小体型認知症、介護うつ、ひきこもり、認知症治療研究会誌 2018:5:48-61
認知症患者の過去を注意深く聞き出すと、そもそも発達障害だったとか、若いころに大うつ病だったことがあるというケースがみられる。もともと精神科に精神病で通っていた老人が、もの忘れが出てきたから精査してほしいと来院した場合、認知症しか知らない医師であると認知症予備軍だと即断してしまうことはないだろうか。すくなくとも2年前までの著者はそうであった。その患者が幸いにも5年、10年通院してくれたおかげで、何度も改訂長谷川式(HDS-R)スコアを繰り返しても、いっこうに得点は下がらず、上がる場合すらある。
仮性認知症という言葉を知っていたつもりであるのに、目の前の患者がそうであることに長い年月を要した。精神病の勉強をちゃんとしていれば、うつ病圏にドネペジルなど処方せずにすんだのにと後悔した。多くの認知症担当医が、精神病の知識を持っていないと思われる。著者の失敗を繰り返さないでいただくために、ここに認知症をとりまく精神病・発達障害の世界をレクチャーすることにした。
さらに、家系調査をすれば、家族に精神病・発達障害がみられる。非認知症の家系に比べて有意に多いかどうかは検討できないが、少なくとも自分が担当する認知症の家庭の状況は知っておくべきである。なぜなら、認知症を精神病の方が介護しているなら、十分に精神衛生上のサポートをすべきだからである。介護保険の意見書に、介護者の精神病理ついても情報を述べるべきと感じている。それが、効率的な福祉サービスに結びつくであろう。
発達障害に認知症が合併すると易怒や介護拒否はピック病のように思えるが、その症状は認知症でなく発達障害からきていることがわかる。発達障害と前頭側頭型認知症(FTD)は前頭葉機能障害の共通性があるがゆえに、多くの症候に類似性があるからである。著者は、介護抵抗の強いわがままなレビー小体型認知症(DLB)患者のことをLPC(レビー・ピック複合)と仮に呼んでいた。いまわかったことは、彼らの多くはADHD+DLBだったということである。
すると、家庭で認知症を介護しているひきこもりの若者は、遺伝的に発達障害であるということに気づく。親も孫も精神的ストレスに弱いわけだから介護されるほうも介護するほうもストレスが強く疲弊しているのではないか、ということを医師は想像たくましく考えなければならない。
軽度認知障害(MCI)の中から発達障害を診断できるようにすること、発達障害と認知症の合併ということに気づけること、治療をどのようにしてゆくか、発達障害の家族と医師がどう関わるか、について考えてゆきたい。
うつ病圏の言葉の取り扱い
認知症専門医として著者は、近年うつ病圏と認知症のかかわりを無視できなくなったと感じている。精神科医は、「うつ病は認知症の危険因子である」という言い方をするが、どうしてもこの言葉遣いを受け入れられないでいる。
そもそもmajor depressionは大うつ病と訳すべきで、うつ病と訳すから混乱が生じる。Depressionにはいろいろな種類があって、プライマリケア医を非定型うつ病や老人性うつ病が訪れることはあっても大うつ病は精神科にしか来ないというのが著者の頭の中での常識である。認知症の世界に関わってくるものとして脳血管性うつ状態というのがある。これも脳血管性アパシーと鑑別しなければならないが、どちらにも悪さをしないという意味でニセルゴリンなら処方が許される。
精神科の教育を受けていない医師は、うつ病という言葉を封印して総称としてはうつ状態という言葉を使うべきと考えている。五十嵐が、「うつ状態」を知る・診るという題名の医学書を出しているが、この題名に著者は感動した。これが正しい言葉使いである。病理組織で確定できない精神科病名は、不確定要素が大きく、医師によって診断名が変わるような患者はうつ状態としておくのが正しい。
つまり認知症の世界では、認知症のうつ状態という言い方が正しく、認知症と大うつ病の合併という言い方は間違っているし、おそらくそのような患者が希少だと考える。若いころから大うつ病で廃用性とか薬剤の影響で認知症になったという言い方は正しい。
MCIの中には非定型うつ病、老人性うつ病が多く含まれる。そして彼らのベースにはADHDがあるかもしれない。典型的な双極性障害が高齢者に多発するとは考えにくく、使うとしたら気分変動性障害が望ましい。精神科は、画像診断に頼らない学問であり、経過診断をするという手法を取る。うつ状態だと思ったら幻視が出てきた(レビー小体型認知症)、うつ状態だと思ったら記憶が進行してきた(認知症)ということから確定診断にしてゆくのである。しかし著者は、初診時に確定診断できる能力をコウノメソッド実践医に望む。
神経内科は科学で、精神科は文学だという批判がもしあるとすれば、現代の医療は画像診断に振り回された医療の退化だと反論したい。高齢者は認知症の責任疾患が重複するため、SPECTは害でしかない。
いまこそ老年医療は、精神科の「観察力」に学ぶ時代がきたと考える。きわめてあいまいな患者の主観から述べられた病状、患者のしぐさや表情などから精神疾患であるかどうかを明晰に判断する(五十嵐)力が臨床医には必要である。
認知症とうつ病圏の鑑別は、当たり前のことであるが、HDS-Rスコアが低下してゆかないことと海馬が萎縮していないことである。いくらもの忘れを主訴として初診しても、海馬萎縮が軽い患者には診断を保留にして、断言しないことが大事である。うつ病圏患者に認知症の初期などと誤った説明をしたら、病態が悪化することは容易に想像できる。
「うつ」という言葉も紛らわしいので使わない。おそらくdepressionを翻訳したのであろうが紛らわしい。それなら非定型、老人性、大うつ病の総称はどういえばよいのかというとうつ病圏でよいだろう。
大うつ病は、朝調子が悪く夕方元気になってくる、食欲がない、何をしても楽しくない、自殺念慮がある、不眠。非定型うつ病は、夕方のほうが調子悪く、好きなことは楽しめる、むしろ過食のことがある。老人性うつ病は、悲哀より不安や寂しさを訴える。そしてうつ病圏の共通点は頭痛と便秘である。これらが強いとうつ状態も強いと考える指標にできる。
うつ状態からくる食欲低下にはスルピリド、興奮系(ニセルゴリン、アマンタジン)、覚醒系(シチコリン注射、CDPコリン)、アセチルコリン系抗認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)でもうつ状態が解消しない場合は、セルトラリン、効きが弱ければパロキセチンまで許可できる。
アマンタジンはふつうの使い方では効き目の悪い薬であるから「シンメトレルロケット」として朝75-100mgなどという処方をする。腎排泄型であるため、中毒予防に腎不全には処方不可である。DL-フェニルアラニン(DLPA)は、ノルアドレナリン系のアメリカサプリメントであり、ADHDの無気力やドロキシドパ(ドプスR)の代替品としてPSP-PAGFのすくみ足に使うが、認知症に笑顔が出る効果も期待できる。
虚血系のうつ状態には、ルンベルクスルベルス含有健康補助食品(プロルベインDRR)が推奨される。虚血系でなくても、他剤に無反応ならうつ状態への改善が期待できる。
軽度認知障害(MCI)の難しさ
認知症圏以外のいわゆる仮性認知症をMCIに入れるかどうかは意見がわかれると考えられる。認知症担当医に、いまだ発達障害の知識が浸透していない現在、そういった議論すらおきないというのが現実ではなかろうか。入れるなら統計が非常に攪乱されることは明らかである。
仮性認知症とは、主にうつ病圏のことである。ADHDが認識されていないとおすれば、はなはだ情報不足と言わざるをえないが、2年前の著者は知らなかったというのが、いくら悔やんでも悔やみきれない。
一般にMCIは、欧米ではATD予備軍と考えられてきたので、精神病・発達障害であるのにコグニサイズや音楽療法等でコンバート(認知症に移行すること)を防ごうという話にはならない。
表1に示すように、平成29年9月から12月までに名古屋フォレストクリニックを来院した1172例の物忘れを主訴とする患者のうち、2回以上HDS-Rをおこなっていた733例から抽出したMCI 98例(13.4%) を最終的にどう診断したかをまとめた。
保険薬の使用の可否は問わないのであるが、改善・不変群の26.6%(17/64)を精神病・発達障害占めていた。これらを認知症圏と勘違いしていると、これらをリバースとして計算してしまうことになる。
さて、表題にある発達障害に焦点を絞ろう。MCIを中心に扱った医学書3冊(朝田、鈴木、藤井)には、ADHDの記載が見当たらない。そして、MCI自体を扱った医学書は極めて少ない。その理由を考えてみると、MCIとして初診した者が、10年後にどうなっているかを追跡することが難しいからである。
幸いにして著者は、記憶障害という自覚が改善しないのに、長年通院してくれた患者に恵まれ、自分が一念発起して精神病・発達障害を勉強したことで、彼らが認知症予備軍ではないことに気づかされた。
このような反省に立って、今後のもの忘れ外来を運営してゆく心構えとして、当然精神病発達障害の知識を得て、初診からなるべく短期間でその患者が将来認知症になる人たちでないことに気づけるようにならなければならないということである。
そして、精神病・発達障害と気づいたら精神科に依頼するのではなく、自分が治すべきである。その患者から学びながら診断術、処方術を体得してゆくのである。とくに発達障害は遺伝的素質が強いため家族関係についても聞き出し、家族全体をマネージメントしながら焦げ付いた家族をも治せればよい。
著者は、大発見したかのように平成30年3月の研究会でADHDの話をしたわけだが、ふりかえるとその年の1月には老年精神医学雑誌に「発達障害と認知症」という立派な総説(渡辺)が巻頭を飾っていたことに気づき冷や汗が出た。著者の知識は最先端より3年ほど遅れを取っていたのである。世界では、5年ほど前から認知症と発達障害の関係が語られ始めていた。その関係は今のところ、ブラックボックスにある。
ADHDの年齢分布
図1に当院で診察したADHDの年齢分布と認知症合併者の分布を示す。ADHD+認知症は当然高齢層に存在するわけだが、注意すべきことは、ADHD単独例の年齢の上限などないということである。90歳であろうが、非認知症のADHDがいて、彼らは1人で元気に来院し、記憶できないと訴える。
上村らは、55歳以上のMCI50例に12%のADHD(6例、全員女性、平均74.6歳)が含まれていたことを報告している。彼女らは社会的交流が広いという特徴があったという。高知大学は日本老年精神医学会で2年連続して報告しているのだが、前年よりさらに2.3%増えていた。
ADHDの場合、アセチルコリンを賦活しても記銘力低下の自覚症状は治らず、ノルアドレナリンとドパミンを賦活するADHD治療薬が必要になる。もちろんアトモキセチンは10mg開始(既定の1/4)が望ましい。
高齢のADHDというのは、昔のことなので学歴では判断できないが、文化教室の講師であったり、老人会会長、民生委員などをしていたりして、知的で積極的である。自分が認知症ではないかといろいろ調べて来院するのである。
北村らは、MCIとして数年観察しても記憶や空間見当識は悪化せず、易怒や易転倒性が問題となっている一群を高齢ADHDと気づいた。ADHD治療薬は、まだ高齢者での使用の報告はない(2014年時点)とし、アトモキセチンは他覚的、自覚的に改善できたとしている。
もし医師が認知症しか知らないと、元気なので老人性うつ病ではないし、甲状腺機能も正常だったということで、ATDしか残らないと考えてしまうであろう。コウノメソッドにのっとり、ドネペジル2.5mg以下での開始、低用量での維持を続けてゆくなら、相手がADHDであっても長年副作用は生じないが、定型的に5mg、10mgを続けるとなると、患者に易怒性がある場合は、医療過誤になってしまう。
著者の印象に残っているのは、85歳女性。夫の死後も独居で元気に暮らし、手芸教室を主宰し、ボランテイアで作品を作るのであるが、集中すると夜中の3時、4時まで毎日作り、睡眠時間は4時間で十分だという。外来にはいつも1人で電車、バスを乗り継いでくる。著者が発達障害を勉強したあとで、彼女を見直すと、長年HDS-Rスコアがおちないのはびまん性神経原線維変化病(SD-NFT)という進行しにくい認知症だからではなく、そもそも非認知症でADHDそのものであることがわかった。
彼女のバイタリテイーは、まさに発達障害でイギリスを救ったといわれるチャーチル首相と重なる。チャーチルは学習障害(数字の概念がわからない)があり10歳のころは全教科最下位の成績で家庭教師泣かせであり、無くしもの、遅刻、気分のむらがあったものの、地理の把握に天才的才能を発揮し陸軍士官学校で出世し、首相となった。
朝から酒を飲むアルコール依存ながら、会議ではしゃべりだしたら4時間止まらず、生涯に残した原稿が15トンあった(文書多産)という。睡眠時間は4時間で十分であった(本多)。これは睡眠欲求の減少といって躁病のエピソードと共通する。当時は双極性障害と診断されていたがベースにADHDがあったことは明らかである。彼は91歳まで生きたので晩年は認知症のように見えたかもしれない。
もの忘れを主訴として来院する元気すぎる老人には要注意である。HDS-Rのときは、医師が野菜の名前を書ききれないほど早く答える。CTでは海馬萎縮がなく、時計描画テスト(CDT)では、スピード感があり書き損じをする。
もちろん、整理整頓ができない、興味のないことは後回しにする、落ち着かない、気が散るという問診をすればわかることであるが、その問診をする前にADHDだと気づけるのが理想である。そして親、兄弟、子供、孫に整理整頓ができない人がいることを確認すれば、ADHDの診断は固まる。あとは認知症の合併はないかチェックすればよい。
101歳で死亡したSD-NFTの女性症例がある(岩崎ら)。89歳からもの忘れが出たが99歳まで自宅生活が可能で100歳のときに神経内科を初診。意識清明、構音障害なし。礼節は保たれパーキンソニズムもなかった。
海馬萎縮があるためATDと診断されたが剖検で、比較的純粋なSD-NFTとわかったという。進行が遅いのは老人斑がなく神経毒が出ていないからであるが海馬は萎縮することを覚えておくとよい。このような症例には、保険薬なしで抗酸化系サプリメントだけを服用するのがよかろう。
認知症担当医は、家族の精神病理にも目を向けること
写真1は、オーラルジスキネジアがうるさいということで、娘に殴られて急性硬膜下水腫(ASH)を発生させていたDLBである。認知症は脳萎縮が強いため、このようなSOL(space occupying lesion)が発生していても麻痺症状は出ないものである。
定期CTでたまたまASHを発見したのである。妻に最近転んだのかお聞きすると娘さんが殴ったということがわかった。それも尋常な殴り方ではない。発達障害の易怒は、壁を打ち破るほどである。
DLBの4割以上がADHDであること(海外の報告)を考えるとこの男性患者のADHDが娘に遺伝してADHDをおこし、その易怒性で父親を殴ったという推測ができた。片親がADHDの場合の子供への遺伝率は60%であるから子供が2人なら1人がADHDであっておかしくない。なぜ、その娘が自宅にいるのか。離婚したことがわかった。
妙な詮索はご法度ではあるが、もし娘さんが生き方に苦しんでいるなら医療で楽になることができると伝えておいた。それで、認知症患者も安全に過ごせる。
ADHDとDLBの関係
ATDとDLBにおけるADHDの合併率を調べた結果、DLBは47.8%、ATDは15.2%、コントロール15.1%だったという(Golomstok)。DLBはうつ状態で元気がなくて陰証のイメージであるのに、中には介護抵抗、易怒を示す患者がいて著者はLPC(Lewy-Pick complex)と呼んでいた。しかし、DLB患者の約半数がADHDであるとなると、LPCのほぼ全員がADHD-DLBラインの患者のことであったかと考える。今後は初診時からADHDのチェックはしなければならない。
Golimstokの統計にはFTDは入っていない。著者の聞き取り調査では、昔うつ状態だったことがある認知症はDLBとFTDに多くATDに少ないという結果が出ている。発達障害は容易にうつ状態をおこすことを考えると、家族がうつ状態だと認識した背景にはもともと患者が発達障害であったことを意味するのかもしれない。
パーキンソン病とADHDの関係も指摘されている。幼少期のADHD傾向をWURS(評価尺度)で調べたところ、PD患者で幼少期のADHD傾向が強かった(Walitza)。
岩本らは、DLBの幻覚妄想状態で措置入院となった66歳男性の経歴、態度、口調からASD合併と診断した。両親が他界しており幼少時のエピソードが不明であったものの、AQ(自閉症スペクトラム指数)が高得点であることなどから診断し、ASDによる社会不適応も考慮して退院指導できたとしている。
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発達障害+認知症は、病型誤診されやすい
ATD、DLB,VDであってもピック病のようにふるまう患者がいて、チアプリドや抑肝散ではその陽性症状を抑えきれずクロルプロマジンがマッチする場合、その原因はADHDやASであることが考えられる。既往歴、家族歴のとり直しで容易に気づくことができる。
結果としてコウノメソッドのピックセット(クロルプロマジン4-75mg)+フェルラ酸含有食品(弱))は発達障害にも極めて,マッチするので、コウノメソッド実践医は発達障害、発達障害+認知症をうまく改善できると思われる。
写真2は、87歳女性。福祉関係者が連れてきたのだが、まずゴミ屋敷状態になった炊事場と今の写真を見せてくれた。発達障害の知識がないと、これはピック症状だと思うであろう。
しかし彼女はATDであり、整理整頓は若いころからしていない。他人と心が通わないため見合いもしない、掃除もさせないという人生である。ATDによる問題行動ではないし、知的で自分で決めるというADHDの性格上、処方もせずに福祉関係者にゆだねた。
発達障害と誤診された意味性認知症
発達障害は社会で適応障害に陥りやすいが、松田らは57歳女性が看護師の職場を配置転換されたときから仕事が覚えられないということで、精神科クリニックにて適応障害と診断されたものの、大学病院で意味性認知症であることがわかったケースを報告している。
喚語困難、言語理解の障害があり、HDS-Rスコアは13、MRIで頭頂葉と左側頭葉の軽度萎縮が見られたという。つまりSD-ATDと思われる。著者が発達障害を知らずに長年認知症を診てきたことが、逆でこの精神科医は認知症や進行性失語に不慣れであったということであろう。
ADHD特有の異常な時計描画
「うつ病では指示された時刻に針を描けるが認知症は描けない」という記載があるが(五十嵐)、それは多少言い過ぎである。表3に示すように、同じ平均HDS-Rスコアの2群を認知症と精神病・発達障害で比較するとCDスコアは後者のほうが良好だとは言える。
少なくとも著者の厳しい採点方法でみると発達障害の絵も満点ではない。むしろ、その特有な異常(勝手に針を描く、書き損じ、円のすれ違い、0を描く)で認知症ではないと気づけるほどである。
致命的な異常 文字盤の中の数字としてゼロを描いてしまう確率が、精神病・発達障害(85例)の5.9%、認知症(1140例)では0.7%である。前者は全員ADHDであり精神病の特徴ではない。これは、ADHDの注意欠如型の特徴である。
相対的に多い異常 書式C(完成された文字盤が描かれたB5紙)に10時10分の針を描くように教示した時、12時を含めた3本針を描いたり、針が12時に向かっている(とりあえず12時)を描いたりする確率が、精神病・発達障害で18.8%、認知症が11.1%である。白紙に文字盤を描かせるときに、直径2.8cm以下の円を描いてしまう(過小円)確率は、それぞれ8.2%対5.4%であった。
描き方の異常性 ADHDのうち多動系のADHDだと、書式A(B5白紙)やB(直径8cmの円が描いてあるB5紙)で勝手に針も描いてします。認知症なら「針も描くのですか」と聞いでくるが、ADHDは勝手に決める。
スピード感にあふれた数字を描き、円はすれ違い、数字・針は書き損じをする。これらは、最近著者が異常コードに算入させたので詳細な統計は出ていないが明らかに認知症より多い。こういったADHDは、改訂長谷川式スケールの際に野菜に10個の想起が早すぎて検者が野菜名を書ききれないという特徴も出る。
図2に80歳ADHDを示す。もの忘れを主訴として7年間通院していたのだが、HDS-Rスコアは低下せず、CDがADHDらしさを示したため、ADHDに診断変更した。娘は、「もともと整理整頓はおっくうな人。つきあいにくいお母さん。先生の説明で、ようやくすっきりしました、納得」とのことだった。困ったことに、非認知症となると、デイサービスができなくなるので何とか続けさせたいとのことであった。
ADHDの海馬萎縮
MRIで観測される海馬NAA(N-アセチルアスパラギン酸)濃度というのは、ニューロンが無傷であることを示す指標である。例えば外見上海馬萎縮が軽度のATDが存在するが、NAA濃度は悪いはずである。
渡辺らは、3年間の観察期間にaMCIからATDにコンバートした患者10例と、踏みとどまった12例を比較。両側海馬のNAA濃度がコンバーターで有意に(危険率0.1%未満)低かったとしている。
さらに海馬NAA値は、加齢と記憶機能に相関し、とくに言語性記憶・一般的記憶を左海馬、注意/集中力・遅延再生では右海馬が優位に機能していると推測する結果も報告されている(星田ら)。
かかりつけ医ではなかなかできないので、マルチスライスCTの冠状断から海馬萎縮度を0から4までの9段階評価をおこなった際に、非認知症は、おおかた0から0.5に入ることを知っていれば鑑別の役に立つ。つまりこれ以上の萎縮ならADHD+認知症の可能性を考えガランタミン2mg×2。(図3)
高齢のADHD単独例と治療の注意点
高齢ADHD例で認知症の合併がない根拠は、海馬萎縮がないこと、非進行性(HDS-Rスコアが低下してゆかないこと)、家系にADHDがいることの3点が重要になる。ADHDは遺伝性であるから、本人だけADHDということはありえない。
1)記銘力障害の治療
ADHDの場合、中核薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)を処方しても記銘力は上がらないので、アトモキセチンから試してみる。開始規定は40mg朝となっているが、過剰であるから必ず10mg錠を2錠朝で開始する。なかには、10mg著効の症例もあった。図4は、患者に渡す説明書である。
アトモキセチンで副作用(眠気)が出る患者には、コンサータR錠登録医を取得してからメチルフェニデート(コンサータR)18mg朝を開始する。アトモキセチンのメリットもあった場合は、併用も可能である(但し書きを書いたほうがよい)。例えば、コンサータ27mg朝、アトモキセチン10mg夕によって翌朝の倦怠が解消する。コンサータは72mgが最大量である。
ADHDは認知症以上に薬を飲み忘れる。飲みすぎるわけではないので大きな問題にはならない。アトモキセチン、メチルフェニデートともに副作用が出た40代女性で三環系抗うつ薬のノルトリプチリン(ノリトレンR)が奏功した経験がある。気力が出るタイプの抗うつ薬なのでADHD向きである。1日30mgと書かれてあるが朝10mgでよい。
2)陽性症状の治療
69歳女性。3人兄弟で全員大学を卒業。彼女の子供は3人とも心療内科を通院中という発達障害家系である。彼女は整理整頓ができない、慌て者で衝動買いをするということだったが、若くはないのでADHD治療薬でなくガランタミン、フェルラ酸含有食品を基本に、クロルプロマジン、チアプリドで落ち着かせた。その結果、時計そのものが改善というよりも描きなおしがなくなった(写真3)ので、抗精神薬の効いたものと思われた。
2018年5月、茅ケ崎市で90歳女性が赤信号だと分かっていながら歩行者が渡り始めていなかったので交差点に進入し、ハンドル操作を誤って6人を死傷させた事故があった。その2か月前の運転講習で合格しており認知症ではない。状況からてんかんはなく、彼女は車の接触を繰り返していたこともADHDを支持する。服装も華やかで若々しかった。
著者の患者(72歳女性、ADHD)も最初は介護うつで通院し始めたのだが、会社を経営しており頻回にスピード違反を犯している。また、3人目の再婚をした社員の47歳女性は、狭いのでこするかもしれないと思いつつ、それでも突っ込んでいってしまうと言っている。
なぜ非定型うつ病(陰証)がスピードを出す(陽証)のかという疑問は、発達障害がベースにあると考えることによって納得がゆく。ADHDは、前頭葉機能障害としてピック症状を演出し、生まれながらの扁桃体脆弱性を精神的ストレスのもとに発現して二次障害(うつ状態)をも形成するという関係があるからそうなるのである。その意味で調整系のフェルラ酸含有サプリメントも有効である。
このように、危険な行動を起こすADHDには高齢といえどもクロルプロマジン1回4mgを処方してよい。
アルコール依存と発達障害
AS+ATD症例:現在65歳の男性。初診時は腕を組む。何やら威圧的な方だったので、ピック病だと思っていた。ビールは1日10缶。下痢になっても飲むという。
著者が「アルコール依存は、発達障害の者がなりやすい」という知識を得てから、昔整理整頓できたかと聞いたら、妙に几帳面だ、友達も多かったと聞き、ADHDではないがアスペルガー症候群(AS)だとわかった。子供を蹴る、妻を怖がる。まるで子供である。
彼のHDS-Rスコアは、13→9と推移しており、認知症には間違いないレベルである。その病型は、発達障害ベースなのでアルコール関連認知症(ARD)と考えたいところだが、断酒してもHDS-RスコアがさがってゆくのでATDと判断。他院からガランタミンが出ていたので初診時から継続し、フェルラ酸含有サプリメントを加え、妻は一定の満足をされている。正診まで2年かかった。
ASだったのですね、と病気の特徴を説明すると妻はしきりに「先生の言うことはすごく納得がいきます」と言っていた。
ASは、ADHDと違って特異な薬と言うものはなく、ピックセットでいいのだが、ピック症状なのにATD的脳萎縮の患者は、ASを疑うとよい。ASは、こだわりの強さと反復行動を示す。処方は、ジアゼパム6mg、クエチアピン50mgである。
ADHD+ARD症例:現在60歳の男性。初診時はピック病かと思っていたが1年10か月経過して、看護師がメモ書きで、早く歩きすぎて困るとの妻のコメントを残していたので、ピックだからといって早くは歩かないと思い、ADHDと気づいた。それがアルコール依存であることとつながった。案の定HDS-Rも21から22.5点に改善。飲酒が減ったからである。
家系を聞くと、父の実父は頭のいい人で(AS)酒飲み、父もアルコール肝硬変、整理整頓できずおっちょこちょいで(ADHD)工作機械に挟まれて70歳の時に事故死。患者本人は整理整頓できず、妻もADHDとわかった。幸いなことに妻はアルコールを受け付けない家系のため、3人の娘は全員ADHDでありながらアルコールに強いものの、中毒まではいかなかった。
彼への処方は、シアナマイド(嫌酒薬)3.45ml、チアプリド75mg、ガランタミン12mg、人参養栄湯3gである。改善する場合はATDでなくARDだったと考える。
ARDの当院データ 著者が把握しているARDは11例で、全員男性。調査時平均年齢75.5歳。初診時のHDS-Rが平均20.1、経過を追うとar(HDS-Rの年間変化量)が+0.14と改善している。海馬萎縮度は1.34+と軽い。処方していた中核薬は、ドネペジル4例、ガランタミン5例、なし2例である。
統合失調症とADHD
統合失調症は、そもそも疾患の提唱者であるクレペリンが早発性痴呆と別称していたほどであるから認知機能が下がる精神病と認識されていた。しかし、その後は予後の良い、認知症とは関係ない精神病という認識で長い時代が経過していた。
最近になって再び認知症が注目されるようになり、1980年代以降は統合失調症の約8割は認知機能が下がるという認識となった。これはドパミン阻害薬による薬剤性パーキンソニズムとは異なり、抗精神病薬の副作用ではないとされ、服薬忘れや服薬拒否で治療も進まない患者がいるという。
実はこの記憶障害がATDとは異なり注意力欠如、抽象思考障害、社会的能力の低さで特徴づけられ、それはADHDのことではないかと思われた。現に幼少期はADHDの傾向があったとわかる症例もあり、岡田の経験では統合失調症の1/4から1/3はADHDをベースとしていると述べている。一方でまったく発達に問題なかった若者も統合失調症になると強調している。
しかしながら統合失調症が認知症化した際の障害の特徴がADHDの注意欠如に似ていることを考えると、ADHD治療薬をアレンジして使えば奏功するのではないかと考える。
なお、著者が経験した統合失調症2例(認知症、非認知症)は時計描画が異常であった(図5)。発達障害だけではあまり絵は崩れない。
易怒と前頭葉機能・ドパミン・セロトニンの関係
神経伝達物質の前頭葉機能との関係で最も確立されているのはドパミンである(Stuss)。正常な前頭葉機能を保つためにはドパミンが健全であることが必須でありドパミン神経支配が破壊されると注意の障害をおこす。
昔から統合失調症にはドパミン仮説が有力である。ドパミン阻害薬のクロルプロマジンが陽性症状をよく抑えることからそのような仮説が生まれた。ドパミン過剰によって陽性症状が惹起され、過剰状態が続くと受容体の過剰興奮によって神経細胞がダメージを受けて陰性症状、認知障害をおこすという仮説である。
ノルアドレナリンは、前頭ドパミン系の調整をしており、行動的覚醒や自律神経調整に関与する。ADHDは前頭葉機能不全がピック症状を演出し、ドパミンとノルアドレナリンが不足している。ノルアドレナリン不足による無気力は何で治すかというと、ストラテラ、CDPコリン、人参養栄湯、フェルラ酸含有食品などが担当する。後3者は細胞の抗酸化作用が強い。
23例の前頭葉損傷に見られた共通点は、自制を欠き、注意を固定できず、社会的慣例に無関心となったことである。また、Holmsは、アパシー、抑うつ、自動性、失禁、不穏、多幸をおこすと報告した。
やなり、ADHD,
AS, ピック病に共通する。著者がこの3者に共通してドパミン阻害薬、クロルプロマジンを第一選択としたのは、当然の結果であり、長期投与による薬剤パーキンソニズムの予防には、最低量の使用、フェルラ酸含有食品併用による薬剤必要量の節約作用を意識しておこなっている。
ピック病がドパミン過剰脳であるという報告はないが否定もされていない。すでに15年以上クロルプロマジンを使用して成功しているので、もはや効く理由を知る必要もない。4%に肝障害が非用量依存性におきることだけ知っておればよかろう。
1980年代から生活環境を変えたものとして家庭用テレビゲームの普及があり、「ゲーム脳」はゲームのやりすぎによって前頭前野の機能が極端に低下する(日本大学、森昭雄)と報告された。
前頭前野は、衝動性を抑える、計画する、道徳的行動をするという機能をつかさどり、ゲーム脳の子供は、無気力、とじこもり、キレやすい特徴を示した。有田は、この易怒がセロトニン神経の脆弱性にあると推定している。
大釜らは、ATDまたはaMCI(健忘型軽度認知障害)と診断された女性270例(平均77.4歳、MMSE21.1±3.8)の部位別脳萎縮度とDementia Behavior Disturbance
Scaleの関係を検討し、前頭葉皮質下の病変が言語的攻撃性(罵り、言いがかり)と関係すると結論づけている。
前頭葉と扁桃体は回路で直結しているため、ADHDの扁桃体漸弱性にも関係してくる。ストレスがかかったときに、衝動性を抑えきれないので暴力が出るということで、ドパミン過剰ではなく、セロトニンの調整能力不足で易怒がおきる。発達障害が怒りっぽいのは、この理由からである。有田によると大うつ病による自殺は、歯止めがきかない状態とも理解できるとしている。
コウノメソッドで理解すると、大うつ病や無気力は陰証・陰性症状、易怒や自殺行為は陽性症状ということになるので、抗うつ薬(興奮系)だけを投与すると自殺を助長するかもしれないというのは納得のゆくところである。
従って自殺念慮の強い大うつ病は精神科に任せ、非定型うつ病は自分で診るようにと指導しており、抗うつ薬としてセルトラリン、パロキセチンの最低量を使用許可してきた。(食欲にスルピリド、心因性腰痛にデュロキセチンは可能)。またエスシタロプラム(レクサプロR)は前医が処方して調子よいなら中止しなくてよい。
まとめると前頭葉系易怒はドパミン過剰、扁桃体系易怒はセロトニン脆弱性からおきる。対策は前者にクロルプロマジン、後者にSSRIと調整系(フェルラ酸含有食品など)かクロルプロマジンの併用、がよいと考える。このようにクロルプロマジンの出番は極めて多く、その用量感覚(最低量は4mg)をピック病で鍛錬してきたコウノメソッド実践医をすぐに発達障害の現場に投入できると考えた第一の理由である。
介護者が発達障害である場合
ADHDが「大学を出ているのでなぜ、この程度の仕事ができないのか」と社内でいじめられることによって、容易に二次障害のうつ状態となり、自己肯定感を持てないまま、ひきこもりになると、その家庭にいる認知症患者の日中の介護を任されるのは当然である。
わかりやすく言うとADHDと大学を出るほどのIQというのは、関係が深い。IQが高いほど発達障害である確率は増すのである(石浦)。だから発達障害をしっている上司なら、その社員がいじめられることを予見でき、それを予防できる。複雑な指示は紙に書く、宴会を強要しない、できない場合は部署を変える、相性の悪い仲間から離す。知識がなければ自分勝手な病気だなで終わってしまう。非定型うつ病もADHDも実に自分勝手に見える、好きなことはできるのだから。
介護でもそうである。介護抵抗の強い認知症を発達障害が人間的にうまく介護できるはずがない。だから極力抑制系の処方を出して、発達障害でも看ようという気になる認知症に変えなければならない。実際介護現場は修羅場である。それを医師は肝に銘じなければいけない。
精神衛生上、介護負担は好ましくないが、社会はそれほど甘くはない。であるから、認知症担当医は家庭に潜在する発達障害をいっしょに治すのが理想である。最近は8050問題と言って、80歳の年金を当てにして無職の50歳の子供が家で同居していることが問題視されている。その50歳の人間とは発達障害の方も少なからず含まれていると感じる。
家族構成員が少なくて単独で介護せざるを得ない場合を除いて、うまく職に就けない、結婚していないなどの発達障害からくる社会的弱点が放置されてどんどん追いつめられる。
その状態で50歳の子供が検診を受けることはままならず、いつか心筋梗塞、脳血管障害で急死すると、歩けない親も餓死してゆく。そして2人の遺体が発見される、こういった最悪のシナリオを想定して、福祉関係者は介護者の精神医学的な状態を把握しておく必要がある。
ADHDの約半数にASが合併すると言われているが、別段ASでなくても発達障害は易怒になりやすく、また非定型うつ病の怒り発作というのは有名である。非定型うつ病とはADHDのことであって、実際は存在しない疾患だと唱える研究者もいる。
簡単に人を殺してしまった若者がASと診断されたことで、ASは一般にも知られるようになったのだが、犯罪と発達障害を結びつける世相には専門家から強い反発も見られる。著者を含め、誰でも発達障害に近い性格を持ち、発達障害の知識が普及するのは当事者の苦しみを医療で癒せる可能性があるだけに歓迎すべきことであるが、人種差別になりかねないという警鐘が鳴らされていることも事実である。
このことに関して著者は、発達障害の知識が医療従事者に限らず、教育者、企業経営者、一般国民に普及するために努力したいと思っている。なぜならば、うまくいかない相手が発達障害であることに気づくことでうまく、対応でき、自分のストレスも弱らぐ、と考えるからである。
医師の治療能力が伸びるチャンスというのは、自分自身や身内にその疾患の持ち主がいるということにつきる。母親がDLBであるならその医師はDLBの処方の仕方を体得するである。自分の子供が多動症なら、自分の小児期と似ているということに気づくはずである。片親がADHDなら60%、両親がADHDなら88%遺伝するという現実からは逃げられない。ただ、発達障害には何らかの才能を持つことも多く、魅力的な人生にできる可能性が一般人より多いと考えてはと思う。
モデルの栗原類さんが、自分の発達障害を書きつづった本には、ニューヨーク市は発達障害と認定すると公立小学校に通っているかぎり、その子供を責任をもって発達障害プログラムで教育してゆくという。
彼を典型的なADHDだと認定したのは、児童の親、担任、教育委員会の担当者、精神科医、児童心理学者、他校の教諭、他校の保護者という7人のメンバーから構成された審査会だった。その前にIQテスト、耳鼻科、眼科で問題ないという診断書も提出されている。アメリカではこれだけ徹底しているのである。
出版後彼には5500通のメールが来たという、それだけわが国は発達障害の相談に乗れる人材、治せる医師を求めているということであろう。日本は、できない子供にはできない教師を担当させるという部分があって、サポート体制が30年以上遅れているという。しかし、著者にADHDで通院している教師(40代女性)に、発達障害児のことを教えてくださいというと、私もいっしょに勉強しますと言ってくれた。
おわりに
医師は患者から学び、次の患者を救うことができる。認知症担当医は、患者の家庭にいる多くの発達障害の方に声をかけられる環境にあり、発達障害を治せる最短距離にいる医師であることに気づいてほしい。
まず目の前の認知症に発達障害が合併していないか再確認し、発達障害があるなら患者の家庭には発達障害の方がいるはずである。その方は介護で苦労しているのではないか、患者を虐待していないか、自分もうつ状態になっていないか。
イマジネーションを広げれば家族全員を救うことができる。精神科に依頼せずとも自分で治せるはずである。
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