認知症ブログ H28.8.22 (内容限定版53)

 

失語症候群1
LPAの患者をついにみつけた

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いままで失語症候群は、前頭側頭葉変性症(FTLD)に所属する意味性認知症と進行性非流暢性失語の2つだったが、最近LPAが加わった。LPAの病理基盤はほぼアルツハイマー型認知症なので、この3疾患はFTLDに所属せず失語症候群としてひとくくりにするのが正しいだろう。

そもそも失語症候群はあまり(肉眼的)脳萎縮をおこさないので、前方型、後方型とは分けにくい。SDは感覚失語、PNFAは運動失語、LPAは伝導失語に対応する病態となる。それでもLPAは、上側頭回と下頭頂小葉が萎縮中心と言われていて彼女のCT画像では、そういえなくもない。前医が行った側頭葉血流低下もそれを否定しない。とても珍しい血流低下パターンである。

74歳女性。改訂長谷川式スケール12。きれいに後半失点パターン(ATD指標)が出ている。木曜と言おうとして「もよう」というなど少し錯語も出た。 

独居で料理はつくれない。歩行障害なし、眼球運動障害なし、アプロウズサイン陰性、語義失語は目立たない。本人は言葉が出てこないという。構音がやや悪い。幻視なし、振戦なし、易怒なしである。ピックコンプレックスではなく、言葉が出てこないとなるとLPAが残る。

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PPAの3臨床病型に対応する病理基盤は1対1ではないので、困る。ただ、PNFAはFTD-Tauが多い、SDは各種変異のあるFTLDが多い、LPAはATDが多いと言っているだけであって、確定ではない。またPNFAが58%と言われるが私には信じられない。私の患者層で言うと、PNFA:SD:LPAは、7: 90: 3くらいではないだろうか。私の観察が甘いからであろう。も少しLPAに気づけるようにしないといけない。

前頭側頭葉変性症(FTLD)1
笑いすぎる74歳。3年かかって、FTD-FLD typeと気づいた

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3年前から通院。当初は、今日に転ぶ、ふらつくということでずっとLPC症候群の何かだと思っていた。耳鼻科的には異常はないと言われた。小脳にも病変はないし耳鳴りもない。MRAで椎骨脳底血流は問題なし。

歯車現象はなくPD治療薬は不要だった。彼女はいつも鞄を手放さず、1日中笑っている。結構頭もよい。また好酸球が高いため寄生虫感染の疑いもありしばらく検査していたが迷宮入りになっている。

家族が診断確定を希望して近くの総合病院にいったときにはアルツハイマー型認知症という返事だった。そしてドネペジルが処方されたのだが、ピック病のようにハイテンションになることはなく歩行障害が惹起されることもなかった。この時から私の迷いが始まった。なぜドネペジルで副作用が出ないのか?

冷静に考え直すと彼女の子供っぽさやキャラクターからして、前頭葉症候群に間違いはないのである。ずっとこのブログでFTD-FLD typeは笑いすぎるのが特徴と書いておきながら、彼女のふらつきに攪乱されて気づかなかった。CTを見直すとやはり側頭葉は保存されていた。彼女はFTD-FLD type+原因不明のふらつき という診断となった。

KONO cocktail 1
グルタチオン3000mgでPSP-PAGFが3歩でUターン

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67歳女性が白い顔をして、杖と介助で入室してきた。最初の一歩が出ないと聞いて、ああパーキンソン病ではないなとすぐにわかった。PDは初期からそうはならない。総合病院からメネシット300mgが処方されているがまったく効かないという。歯車現象はまったくなし。なぜこれがPDなのか。ニュープロパッチはかゆくなって中止したという。中止してよかった。

眼球は動いているがCTではハミングバードが陽性。最近転んだかどうか聞くと後方に倒れたし首が後屈することがあるという。これをPSP以外の何物でもない。神経内科医は最近、PSPかもしれないねと言いだしたという。典型例なら初診時にわかってほしいものだ。

グルタチオン3000mgであっさり改善。ふらつきもなく介助は不要になった。今後は念のためメネシットを継続。NewフェルガードLA粒3-1-1開始。10日ごとの点滴とした。残念ながら近隣に実践医がおらず当院への通院である。

認知症―精神疾患スぺクトラム1
アパシーでなく躁鬱の周期が明確なピック病とその治療法

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認知症と精神疾患の間には、ミッシングリンクがあるようだ。うつ病とレビー小体型認知症の間の深い関係については、頻回に医学会で取り上げられている。今回ピック病と躁うつ病(双極性障害)との合併を思わせる症例を経験した。

半年前から夫に連れられて通院している53歳女性。初診時にピック病と診断したのだが、6月にはダイエットして4kg落としたと満面の笑みで、ややハイテンションになっていた。いま思うとそれは躁状態だったのだと思う。 

ダイエットの無理?がたたって、その後彼女はうつの沼にはまり込んでいった。基本的にピック病はダイエットできないと私は思っていたので、ダイエットが成功したと聞いた時は、おかしいなと思った。しかしその後飽食中枢が破たんしてまったく食べられなくなった。

7月28日から頻回に臨時で訪れるようになって、動きたくない、味がわからないと言いだした。セルトラリン、スルピリド、プロマックで必死に防戦したが、8月8日も訪れたのでシチコリン1000mgで誤った脳内シグナルを補正した。セルトラリンは12.5mgを2回に増やした。この用量設定では精神科的にはまったく足りないと一刀両断にされる処方であろう。しかし認知機能の低下している患者においては、セロトニン補充は細心の注意が必要(アセチルコリンとのバランスにおいて)。その結果一発奏功し、8月15日の定期外来日で、笑うようになった。

彼女は認知症ではなく、純粋な双極性障害ではないのかという質問が出ると思う。改訂長谷川式スケールは遅延再生6/6でアルツハイマー型認知症を考えにくい得点だった。しかし野菜を聞くと、リンゴという誤った答えをし、5物品のときは、鏡、ハサミといった、ないものを答えた。CTでは52歳ではおきないような前頭葉萎縮があり、ピック切痕が見られる。彼女は認知症圏で治療を組むのが無難である。

彼女の医学的理解として、前頭側頭葉変性症の器質的変化があり、それに加えてセロトニンの機能的増減が付加されていると読む。従って彼女が将来周囲を困らせるような行動にでたときには、セロトニンブロッカーであるニューレプチルが効率よく抑制すると思われるが、次の外来までにうつ期にはいってしまうとひどい状態になると思われる。ピンポイントで1種の神経伝達物質を叩くのは危険である。

頻回に診察できないのなら、やはり調整系のフェルガード100Mで中間証に整えることをベースとし、コウノカクテルでシグナル補正をするのが理想であろう。

側頭葉てんかん1
てんかんが制御されたら改訂長谷川式スケールが上昇(22→26)

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5年前から通院している69歳女性。いつも娘さんと来るのだがアルコール依存症の既往があり病型がはっきりわからなかった。

平成24年1月、毛髪を撫でまわし繰り返し行動があり寡黙なためピック病を疑った(ピックスコア4.5)が、それにしてもCTでの脳萎縮は軽かったしレビー小体型認知症の症状はなかった。アルコール認知症で片づけてもいいのかなと思っていた。
 
平成28年2月、易怒があったためシンメトレルロケットをダブルからシングルにおとした。つまり彼女は最近陰証だったのである。6月にてんかん発作をおこし総合病院脳外科から抗てんかん薬をイーケプラ1000mgに変更されてから改訂長谷川式スケールはどんどん上がったという情報提供をいただいた。5年間で改訂長谷川式スケールが22から26に上がったことになる。

その目でCTを見直すと、側頭葉が健常者より腫れぼったい感じがした。つまり側頭葉てんかんで認知機能が落ち、繰り返し行動は一種のてんかん小発作だったのかもしれないと思った。半年ぶりに診た彼女は多弁で楽しそうに話してくる。なんだこの人は!娘さんが、入院してからものすごく調子がいいといい、本人もそうだという。おまけに「私はなぜ認知症なのですか?」と質問してきた。いままでの何もしゃべらない5年間とは全く違う。

仮に側頭葉てんかんだとすると、年に1回しか診られない貴重な症例である。側頭葉てんかんは、ふつう精神障害手帳の対象となり精神科医が担当することが多く、コウノメソッド実践医にもあまり来ないと思われる。

アルツハイマー型認知症1
足が悪くても徘徊し行方不明になってしまうことがある

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3年前から通院。93歳女性。杖でゆっくり歩く。改訂長谷川式スケールは9.5でCTではアルツハイマー型認知症と正常圧水頭症の所見だった。足が悪くて高齢なのに、結果として夜中の徘徊で警察に保護されることになった。自宅から400m離れた産業道路の橋の下にいたという。

どうも1か月まえからおかしくなっていて、尿失禁で下着をぐしょぐしょにすることが増えた。寝ぼけたらしい。頭頂葉のほうは虚血もあるようで90を超すと簡単にせん妄は起こすであろう。尿意消失はNPHの影響かもしれない。動作が遅いから、足が悪いから、徘徊はしないだろうと思ってはいけないことを示した患者さんである。

現在の処方は、レミニール8mg×2、チアプリド25mg夕、二トラゼパム5mg就寝前。そしてせん妄予防にシチコリン1000mgを打っておいた。

統合失調症1
非定型抗精神病薬1剤が基本

2015年9月に公表された統合失調症薬物治療ガイドラインでは、第二世代抗精神病薬を1剤使用しなさいと推奨している。これは非定型抗精神病薬のことで、①セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA)、②多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)、③ドパミン部分作動薬に分類される。

には、リスペリドンなど4種、②には、オランザピン、クエチアピンなど3種、③はアリピプラゾールがある。①は少量で確実な幻覚妄想効果、②は鎮静、抗うつ作用が加わり、③はマイルドな鎮静作用があると言われる。
 
Medical Tribune 49(32,33),2016, p17によると、50歳女性で統合失調症(軽度認知障害あり)が7領域、14種の処方をされていた。抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、気分安定薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬、便秘薬、抗めまい薬などである。実はコンプライアンスに問題があり、見かけ上の治療抵抗性があると思われた。つまり外来医師は、すべて飲んでいると信じていて改善しないから薬を増やしていったのである。

患者と家族の同意のもとでシングルブラインド処方を開始。つまり錠剤を粉にして一部ずつ偽薬に変えていった。結局、1種だけの抗精神病薬ですむことがわかり認知機能も上がり、口唇ジスキネジア(薬剤性パーキンソニズム)も消失したという。

自閉症スペクトラム障害1
甘麦大棗湯が30%以上有効

第67回日本東洋医学会で東口クリニック(茨城県)川嶋浩一郎院長が、15年4か月の間に自閉症スぺクトラム障害(ASD)98例に甘麦大棗湯を投与し、アスペルガー症候群はあまり効かなかったが、服用を継続できた75例で著効39%、有効27%、やや有効13%、無効21%だったと発表した。

使用頻度は、4歳以下83%、20歳以上67%だった。著効は幼いほど、女児でよりみられた。

著効例が多かった10歳未満児の投与量は成人換算で通常量(0.15-0.2g/kg)の2倍以上使っていた。川嶋氏は、有効性を高める要因は、早期の開始、成人換算の2倍以上使うこととしている。

私はこれら患者には、フェルガード100Mと甘麦大棗湯を使うが、川嶋氏は、この漢方は興奮性をおさえるだけでなく抗炎症作用などにより関連遺伝子のメチル化が抑制されてエピジェネテイックス変化が改善するという根本的な治療に寄与している可能性があるとしている。また、慢性炎症を長期的に抑制することで、てんかん予防、扁桃体興奮の抑制によるパニックの改善をしている可能性があるという。Medical Tribune 49(32,33),2016, p17
 
川嶋先生にはぜひフェルガード100Mの併用も試みてほしいものである。

コウノメソッド医療者 横浜、神戸から実践医がエントリー!

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コウノ・レストランガイド 5 
ミシュラン名古屋2つ星予想 イタリアンのSettanta(栄)

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本店は名古屋ヒルトンの地下にある。味で勝負なら名古屋で1、2を争うイタリアンである。本当の名店は、書店で売られているレストランガイドには載らない。素人のブログから名店を見つけ出すのである。全室個室。

この店の欠点は、料理を出す速度がおそいこと(2時間45分かかった)、給仕が足りないこと、コーヒーが苦いこと。しかし、何度も行く価値はある。評価できない皿は1つもなかった。

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とにかくアンチパストだけで5品も出るというまじめな献立。とくに感動したのはスペイン産フォアグラ。甘い焼きトウモロコシの上にフォアグラの塊が載っていて、その上に給仕がトウモロコシの粉を氷結させたものをかける。温かくて冷たくて最高の一品だった。

場所は、テレビ塔の南東、栄のビジネスマンしか歩かないセントラルパーク沿いである。駐車はセントラルパークに停めて徒歩。サービス料10%とられる。お代わり可能のパンはパリパリ感があって極上。合計12皿出てくる。

ドクターコウノ2016年講演 

●8月28日(日)午後2:30-4:30 平成28年度第1回日常生活圏域別多職種協働研修会 豊川社会福祉会館(ウィズ豊川)視聴覚室

受信拒否のある認知症患者の在宅支援~受診への結び付け~ 95分+質疑20分。

主催 豊川市福祉部介護高齢課 担当:堀江様、松井様。対象:豊川市地域ケア会議(南部地域包括支援センター圏域)参加機関等。各部署で参加者は厳選のうえ参加申し込みを。上限人数一覧表を参考に願います。(計60名まで)

●9月4日(日)点滴療法研究会設立10周辺特別セミナー(90分 ベルサーレ三田、東京)認知症治療とアンチエイジングの融合ーコウノメソッド-

会場は品川駅からタクシーで5分。9:10-15:50 ランチョンセミナーあり。懇親会16:00-17:00(私も出席します)。演者5人で私は2番目の10:30-12:00。カナダで上演した動画をお見せします。参加費は、マスターズクラブ会員が3万円、一般6万円、同伴スタッフ(コメデイカル限定)1.5万円となっています。料金振込みの締め切りが9月2日(金)正午。お問い合わせは、点滴療法研究会事務局(品川区)電話 03-6277-3318

●9月25日(日)日本ホスピス・在宅ケア研究会主催 黒田裕子記念神戸フォーラム 神戸コンベンションセンター国際会議場大ホール(700名)14:00-16:30 コウノメソッドで認知症の人も地域で暮らせる。上記研究会のHPから申し込み。
会員3000年 非会員4000円(25日のみ参加なら-1000円)。24日(土)17時以降の懇親会(5000円)に私も参加します。問い合わせ:事務局(梅垣) 電話078-335-8668  kobe@hospice.jp

●11月5日(土)夜7:30-9時 徳島県臨床内科医会講演会(徳島県医師会館)
東洋医学的発想・アンチエイジングで認知症を改善させるーコウノメソッド解説ー
問い合わせ:ツムラ 書籍・DVD販売あり。

●11月6日(日)朝10時―正午 徳島一般講演 徳島駅から徒歩10分「とくぎんトモニプラザ(300席)」認知症介護のコツーくすりの効用と副作用―

●11月30日(水)18:30-19:30 長久手南クリニック認知症勉強会
認知症患者の前頭葉機能を考える

井形昭弘先生のご冥福を祈る

87歳、急性心不全で亡くなられた。SMONの原因が整腸剤キノホルムであることを突き止めたのが最大の功績であろう。7561名の患者勝訴を実現した。

東京大学卒の神経内科医。神経難病HAMの発見で、野口英世記念医学賞を受賞。名古屋学芸大学長。過去には鹿児島大学学長から国立中部病院院長。この病院が国立長寿医療研究センターに変わる直前に就任。その後あいち健康の森理事長も歴任。日本尊厳死協会理事長。浜松出身。ある医学生に聞くと、HAMは知っているがSMONなんて習っていないと言っていたので嘆かわしいことである。

老年医学の我が国のトップにいたような方で、会話したこともないが(ちょっとしゃべったかも)遠目からあこがれて見ていた。最期に拝見したのは、ホテルアソシア名古屋の宴会場で、大学の謝恩会のような感じだった。背は低いが胸板は厚く、とても上品なお顔で教育界の重鎮と言う称号にふさわしいいでたちだったと記憶している。
 
私は、神経内科医についてネガテイブなことをよく書くのだが、結局一番意識して尊敬しているのも神経内科医なのである。そういう目標があるから勉強しよう、治そうと意欲が湧くのである。それは老年医学に尊敬できる人がいないという反動でもある。やはり医者らしい医者は神経内科医だ。

老年医学のトップが広めてきた骨粗しょう症のビスフォスフォネート製剤は、最近になって大腿骨が真ん中でぽっきり折れる(非定型骨折)要因になっていると問題化してきた。現在賛否両論であり、ビスフォス短期間使用でも骨折した症例も散見されるなど関連を否定する話もある。

集団統計で差がないというのは、もう私はごまかされない。子宮頸がんワクチンの副作用調査でも打っていない少女と症状に差がないというばかばかしい結果が出て、河村名古屋市長の英断でデータを無視することになったばかりだ。一部の特異体質の患者には関与しているかもしれないから私は処方していない。

なにか怪しいのではないか、と臨床医が騒ぎ出したことはたいてい、そうなのだろうと思う。じゃあ、統計を取って白黒はっきりしようと動き出すわけだが、有意差がないとなれば薬は白、患者はうそつき、となる。これは学者の集団ヒステリーだと思う。統計学は患者を救うために存在するはず。私はそう信じたい。

最近、注射式の骨そしょう薬でひどい皮疹になりそれが重症化した患者さん(当院の患者)の話も伺った。私はいま膝の痛みにエデイロール0.75μgを処方するだけにしている。