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Drkawaguchi

コウノメソッド実践医の対談:コロナ対策 

田頭先生と白土先生(1)


8月のポートメッセ名古屋での院長講演は、催し物自体が来年1月14、15日に移動しますので、
院長講演があるかどうかは、調整中でございます(名古屋フォレストクリニック院長 河野和彦)


コロナに負けない。介護職20年目です。コウノメソッドの処方を勉強したいです!

名古屋フォレストクリニック 院長 河野和彦先生 平素より大変お世話になっております。デイサービスで生活相談員をしていますKと申します。

当事業所の利用者様で認知症による暴力が酷い方がみえ、ご家族の方も憔悴しきってみえるというケースがありました。詳細は割愛させていただきますが、主治医による薬の処方が私から見ても「なぜこんな処方を?」というような内容でしたので、私からご家族にセカンドオピニオンを勧めたところ、ご本人と一緒にフォレストクリニックを受診され、受診後は暴力等の問題行動が嘘のように改善しました。私は20年間介護の世界に身を置いており、認知症状の改善しない、又は悪化の一途をたどる利用者を数多くみてきました。独自の勉強で、処方された薬が(利用者に)合っていないケースが多いのでは?と考えるようになりましたが、今回の件でそれが確信に変わりました。

今は先生の御著書を拝読させていただき勉強中ですが、是非とも生で先生のご講義を拝聴させていただきたいと思い、ネット検索をすると名古屋でのセミナーの記事が出てまいりました。セミナーへの参加資格は医師の資格をお持ちの方限定でしょうか?もし参加させていただけるのであれば幸いでございます。コウノメソッドを学び、苦しんでいる利用者様とご家族に対して同メソッドを実践されている医療機関を紹介して、少しでもその苦しみが緩和されたら・・・と思っています。

お忙しいところ、お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。(社会福祉士 介護福祉士)

ドクターコウノのお返事:コロナに負けるな! 何度延期しても研究会をやりますよ。

   8月1日(土)~2日(日)第1回コウノメソッド名古屋セミナー(医療編)は医師向けの合宿ですが、医師以外の方は参加費用を安くします。当初は530日、31日予定でしたが変更しました。サンプラザシーズンズ名古屋(藤が丘、名古屋駅から地下鉄で20分+バス5分)

   85日(水)午後1:20-2:20 ポートメッセ名古屋(名古屋駅からあおなみ線)で講演します。これは無料です。予約不要。

   926日(土)午後4:30-7:15 第2回コウノメソッド名古屋セミナー(ケア編)があります。サンプラザシーズンズ名古屋。ケアマネジャーなどを全国から集めます。CTの話はあまりしません。

   927日(日)午前9時―12:30第1回認知症治療研究会中部支部会(小板建太会長)があります。コウノメソッド入門には格好の内容です。

   と③④は、申込用紙をプリントアウトして記入したあと名古屋フォレストクリニックにFAXしてください。③④は宿泊参加者も想定し1つの申込用紙を使います。

(認知症治療研究会関東支部会(中野)は11月に移動の予定。8月予定だった関西支部会in神戸はいったん中止とのことです)

 申込用紙【PDF】

 

 


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論文

 

 レビー小体型認知症と精神病

 

名古屋フォレストクリニック

河野  和彦

 

要旨: レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー型認知症(ATD)に次いで頻度が多く、幻視やパーキンソニズムを特徴とした予後の悪い認知症である。いままでピック病であるかのように介護抵抗を示したDLB患者のことをレビー・ピック複合(LPC)と呼ぶことを提唱してきたが、DLBADHDが併存しやすいことがわかり、そもそもの発達障害気質が介護に抵抗することが理解できた。DLBには、精神病タイプ・ATDタイプ・パーキンソンタイプの3種があると考えれば、初期に精神科へ行く患者と神経内科へ行く患者にわかれることも理解できる。発達障害にもDLB同様に薬剤過敏性がみられるため、サプリメントが有用であり、両者とも改訂長谷川式スケール(HDS-R)の際に感じられるのは一種の意識障害系のミスをするということである。

 

 

キーワード:レビー小体型認知症 ADHD 精神病 薬剤過敏性 意識障害

                              (認知症治療研究会誌 2019:6: 12-22

 

 

はじめに

 著者は、認知症のリスク因子を調査するために、うつ状態の既往や家族における発達障害の有無を精力的に問診した時期があった。その結果は既報1)で示したとおり、DLBと前頭側頭型認知症(FTD)は、精神病との関連がある家系が、ATDに比べて濃いことがわかっていた。

 その後、DLBATDや健常老人に比べて優位にADHDの併存が多いこと2)FTDは双極性障害の既往があることが有意に多いこと3)があいついで報告された。アメリカが、認知症イコールATDという扱いである気持ちはわからぬではない。確かにATDこそが認知症らしい患者である。

 DLBの典型例は、意識障害系かつ歩行障害系である患者のことである。つまり幻視があって転びやすい状態であるため処方が非常にむずかしい。他院で6錠のメネシットを処方され麻薬中毒者のような状態で初診した患者も経験した。彼女は当院の治療で2週間後には健常に近い状態になった。

 認知症と発達障害がリンクしているとなると、コウノメソッドは対症療法を軸とするため、病状を大崩れさせない処方ができる。

 認知症患者も高齢化しており、脳内ドパミン、セロトニンも生理的に低下しているのだからアセチルコリンしか賦活しない抗認知症薬(ドネペジル)を製薬会社や学会に誘導されて10mg処方したり、患者の歯車様筋固縮を確認せずに、それを増量していったりという臨床医としての力量が疑問視される事例が多発している。

 201810月にフランス政府が抗認知症薬の保険適応を削除し、20195月に厚労省が70代の認知症を6%低下させたい戦略の1つに有効なサプリメントの認可制度について言及した。

DLB治療の正攻法は、コウノメソッドですでに完成している4が、今後は発達障害との因果関係に留意しながら診療してゆくことで、MCI(軽度認知障害)-DLBへの正しい医学的介入、DLB患者家族の精神病理の理解によるその家庭の包括的ケアが実現できると考える。

 

レビー小体型認知症の問題点

 表1に示すようにDLBの問題点は、1)薬剤過敏性、2)意識障害性、3)神経伝達物質の多系統欠乏、4)ADHD-DLBライン、5)歩行障害、6)ATDのレビー化 があげられる。
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 このような状況のため、ATDとDLBの臨床的比較をおこなった15の論文ではすべてがDLBの予後不良を示している5)。これを打開するためには、DLB患者には最初から保険薬だけでは管理できない疾患であることを説明し、フェルラ酸サプリメント(ガーデンアンゼリカ配合)の使用が必須であることを説明すべきである。

当院の統計ではDLBはほかの認知症に比べてHDS-Rスコアの年間変化量(arannual rate)がもっとも悪い疾患であり、一方フェルラ酸サプリメント使用の場合は、arが平均0という驚異的な好成績を示しているからである。

 さて、まず4)について説明する。

 

なぜレビー小体型認知症の既往にうつ状態があるのか

 著者の外来での問診によって、DLBやFTDには、ATDに比べて精神病圏が多いこと(本人の既往や家族歴)に気づいた。前述のように、それを支持する報告もある。

 DLBは、ATDと同様に病理学的所見で確定される疾患であるが、近年MIBG心筋シンチなどから生前診断される精度が上昇した。ただ、臨床医には、DLBの周辺症状をどのように波風立てずに改善してゆくかということが求められている。その症状の一つにうつ状態がある。うつ状態とアパシーは鑑別が容易ではないが、確かにFTDのアパシーとは異なり、DLBの場合には悲哀感があり、抗うつ薬の必要性を感じる場面は多い。

 ただ、発達障害の9割は二次障害を経験すると言われており6、抗うつ薬が効きにくいうつ状態になりやすい。最近では、治療抵抗性のうつ状態の患者には、発達障害の存在を調べるように精神科では言われ始めているほどである。あたかもPD治療薬が効きにくい患者は、進行性核上性麻痺を考慮するのと同じ事である。

精神科系の学会でDLBに先行する「うつ病」について、よくシンポジウムが開催されている。器質的疾患(認知症)と非器質的疾患(精神病)の共存という話題は、最近湧き上がってきた難問であり、注目されるのも当然であろう。

 この理解として、やはりDLBに併存した発達障害が容易にうつ状態を起こしやすいと考えれば、DLBとうつ状態は、容易に結びつくのである。発達障害で生まれたヒトが、40年後にうつ病をおこし、75年後にDLBをおこす何かがあると考えると、うつ病がDLBをおこしたという無理な考え方をしなくてもよくなる。

そもそもDLBの大脳で不足したものは、アセチルコリンとドパミンであって、セロトニンの報告が乏しい。扁桃体脆弱性からくるものと考えればよいのではないだろうか。

 前頭葉と扁桃体は連絡が直結しているため、いわゆるフロンタルレビー(前頭葉の萎縮がめだつDLB患者)は、前頭葉機能に支配された運動機能障害を日常観察できる。すなわち、精神的ストレスに弱いことから、緊張すると振戦がひどくなったり、狭い場所では歩けなくなったり、意識を強く持てば小刻み歩行患者が丸太を跨げるという現象がみられる。

 コウノメソッドでは、認知症のうつ状態には、①興奮系(サアミオンロケット)、②中核系(ドネペジル低用量など)、③抗うつ系(セルトラリンを第一選択とする)の順で投与することを推奨している。

   と②は、アパシーであっても誤治にならぬようになっている。アパシーに抗うつ薬は合わない。

 

(解説)サアミオンロケット:朝、ニセルゴリンを8-15mg投与する不均等投与法。先発品に敬意を表して商品名を使っている。同様に、シンメトレルロケットもなる。

 

ADHD-DLBライン

 ADHDDLBが併存する患者のことを著者は、ADHD-DLBラインと呼ぶことにした。2つの病状を併発しやすいという意味で、ラインという言葉で双方を結び付けた。

ADHD単独例とDLB単独例はHDS-Rの際、意識障害系という類似点を見せる(図1)。ADHDが不得意なのは5物品で、さらに数字関係が不得意な点がDLBと共通している。
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すなわち、数字関係と5物品の想起というのは、即時記憶とはいわれるけれど、注意力障害や広義の意識障害は両者の共通点だと感じる。つまり両者はCDPコリン(米国のサプリメント、別名シチコリン)で認知機能の改善が得られる。側頭葉てんかんも同様である。

ADHDの半数にアスペルガー症候群(AS)が合併するという言われ方がするが、そうではなく両者に少しずつ要素が見られ一心同体のように考えている(図2)
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そのためAS-DLBラインの患者もいる。このため介護抵抗は激しく、泥棒の幻視をみたら警察の電話をしてしまうという衝動的な行動を容易に行ってしまう。

次にADHD-DLB(LBD)ラインの6症例を提示する。

 

症例1 画像情報なしでADHD-DLBラインに気づけた症例

76歳の元気な女性が娘と来院した。主訴は記憶障害である。 

問診の中でADHD-DLBラインのイメージをつかんだ。うつ病の既往はなく、寝言は言わない。つまりREM睡眠行動障害はない。振戦なし。たまに人物と名前がずれるという、これは視覚処理の異常なのだろう。好き嫌いははっきりし、こだわりはまあまあ強い。高校の成績はよく、小学校からお茶とお花を習っていた。洋裁学校に進んだ。本人は整理整頓がまったくできず、娘もそうである。

診察室に早足で入ってきたときから、この老人はADHDだろうとわかっていた。イスにもなかなか座らなかった。昔の著者だったらピック病だと思っただろう。HDS-Rも野菜の答え方が早すぎる。結局25点。家族以外の人がいるような気がするという幻視に近い妄想がある。 

この人は、ADHD-DLBラインなのだから絶対に前頭葉が萎縮していると確信してCTを行ったところ、やはりその通りの所見だった。発達障害を勉強し始めて3年。ADHD-DLBラインの画像前診断ができるようになった。

歩行障害、意識障害、小さな声というのは陰性症状であるにもかかわらず、調整系セロトニンが不安定であるために衝動性、易怒、介護抵抗が併存するという処方しにくい状態になっている。これを正攻法で治すためには、興奮させない程度に覚醒させ(シチコリン500mg,調整系のサプリメント(ガーデンアンゼリカ配合の少ないフェルラ酸サプリ)を中心とした処方の組み立てを行う。

陽性症状にはもはや抑肝散は効果が期待できず、クロルプロマジン低用量処方が抑制系の第一選択としてゆるぎない。

 

症例2 診察室でADHD-DLBラインの証拠をつかむ方法

 3は、17か月通院している81歳男性である。初診の10年前から寝言、REM睡眠行動障害、幻視があり、2年前から妄想も加わった。
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 CTでは海馬萎縮が軽く、前頭葉が強く萎縮している。これは著者がフロンタルレビーと呼んでいるDLBの典型的な脳萎縮パターンである。このように彼は典型的なDLBだった。

初診時のHDS-Rスコアは22であり、遅延再生も2しか取れないため、これだけ見るとATDとは鑑別しにくい状態であったが、ガランタミンやCDPコリン(覚醒系サプリメント)で結局29まで上がってしまった。もちろん遅延再生は6点満点になったので、ATDは考えにくい。現在の病名は、厳密にはレビー小体病(LBD)ないし、MCI(軽度認知障害)-DLBとせざるをえないほどである。

 さて、彼の時計描画をみると書式Aで勝手に針を描き、数字の2,4,5などはスピード感があふれている。これからADHDの気質が見てとれる。事実彼は早とちりや多動もありチアプリドが必要である。

 このように、CT画像でDLB、時計描画テスト(CDT)でADHDが客観的に把握できる。ADHDは、CDTで満点はとるけれども、異常コード#100 勝手針、#101 描き損じ、#102 円のすれ違い を観察することでADHDの証拠をつかむことができるのでぜひ行うべき検査である。なお、ADHDHDS-Rの際に、検者が書ききれないほど野菜を早く答えるため、「早すぎる」とコメントを書いておくとよい。

 4 83歳男性。4年4か月通院しHDS-Rスコアは2223と下がらず、CDTでは意識障害系の描画がDLBを支持し、書き損じがADHDを示している。彼がアルコール依存になった理由の1つは発達障害からきていると考えている。
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 5 59歳男性。臨床的に典型的なLBDである。HDS-Rスコアは29.5もあるのに、CDTでは頻回に描き損じをおこし、ADHDが明確にわかる。
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6 80歳男性。テレビでDLB特集を見て、自分はこれに当てはまると思い、1人で大阪から来院した。有名大学を卒業し現役で仕事をしている。LBDとしては筋肉がこわばるという。HDS-Rでは28.5点で5物品ができないというADHDの特徴を示し、CDでは勝手に針を描き、描き損じをみせた。彼の場合、3本針の修正すらしないので、相当な早とちりである。CTは、フロンタルレビーの所見である。
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このように初期のADHD-LBDラインは、フェルラ酸・ガーデンアンゼリカ配合サプリメントは絶対に服用するように推奨している。当院のDLBにおける集団統計が、HDS-Rスコアの年間変化量で服用群と対照群の間で有意差を示したからである。

 

症例3 家庭を崩壊させた「凶暴なレビー」の典型例

69歳女性A MIBG心筋シンチで、アイソトープの心臓への取り込みが悪くDLBと診断されていた。幻覚、妄想があるのは当然であるが、その娘Bが手紙に書いて読んでほしいと言ってきた内容は、一日中しゃべっていて、娘を昔意地悪をした親戚だと誤認して、金を返せ!どうする気だと攻寄るのでとてもつらいとのことである。著者は、このように陽性症状の強いDLBをかつてLPCと呼んでいた(ピック症状を示すDLBの意味)。

 また、小学校6年の孫Cが、2年のときから通学できず、フリースクールに入れるために認知症の祖母Aを老健に入れようとしたところ、陽性症状を鎮めてからでないと入所を受け入れられないと断られてしまった。それほど強い攻撃性があったのである。

 さらに、娘Bを日常助けてくれていた専門学校生のD(女子)も精神的に参って学校に行けられなくなってしまった。Bの手紙は、子供たちが心配です。どうか助けてくださいという悲痛な言葉で終わっていた。Aの受診時に本人の前で著者に言えないために、手紙になった。

 言うまでもなく、この家庭を崩壊させたのはDLBのAである。そして、DLBの周辺症状によって発達障害(AS)がB,C,Dを苦しめているという構図になる。このAのような患者を著者は、LPCから一歩進んで「凶暴なレビー」と呼んでいる。

DLB47%ADHDを併発という論文はある2)が、ASはどうなのであろうか。前述したようにADHDASは明確に分けられるものではない。そのため、DLBとASとのリンクもあると考えてよい。

 孫のC,Dが引きこもったり学校を中退したりしたのは、二次障害によるものであり、その素地である発達障害はAから引き継いだものであると推測される。前医はAに抑肝散とチアプリドという比較的コウノメソッドに近い処方はしていたものの、このケースでは、初日からクロルプロマジンとフェルラ酸・ガーデンアンゼリカ配合(5:1)サプリメントのいわゆるピックセットで治療するのが正攻法である。

 著者が、LPCと命名してしまったように、AS老人はピック扱いの処方でよいのである。DLBの薬剤過敏があっても、クロルプロマジン細粒16mgというのは、大きな副作用はきたさない絶妙な用量設定としている。

 

ADHD患者の一部は、将来のLBD発病を予見される

 中年のADHDの中には、通院中にREM睡眠障害が発現してくるケースが散見される。その時点で、レビー小体病(LBD)だと言ってもいいのであろう。DLBの半数近くがADHDを併発しているという情報が頭にあれば、その患者がいずれDLBになってゆくということが予見できる。

 ただ、それが5年後なのか30年後なのかわからないので、あまり深刻な説明をするべきではないし、言う必要もないであろう。ADHDには、扁桃体脆弱性があって医師の悲観的な説明がうつ状態を誘発するリスクが高いからである。

 80歳女性。幻視、独語、寝言があってパーキンソニズムはない。5年7か月通院しているが、HDS-Rスコアは26.526とまったく低下してこない。いわゆるLBDのままで経過している老人が存在する。彼女は一生認知症にならない可能性もある。CTでは海馬萎縮度0.5+、前頭葉萎縮はきわめて軽度である。彼女はHDS-Rの際の答え方が早すぎる傾向があり、ADHDグレーととらえている。

 7は、ADHDDLBが生化学的にどう結びついてゆくかについての推論である。両者の共通点は、ドパミン欠乏である。ADHDは前頭葉限定で、DLBはさらに障害領域が広いのであろう。ドパミン欠乏は、人生の楽しさを失わせる。そしてADHDはノルアドレナリン(やる気を司る)が不足。ADHD治療薬は、ドパミンとノルアドレナリンを引き上げようとするものである。
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 三環系抗うつ薬のノリトレンは、ちょうどこのような作用があるため、ADHDは最初からうつ病圏のような構造なのではないかと想像される。逆にメチルフェニデート(コンサータ)もアトモキセチン(ストラテラ2018年に後発品発売)の両方とも耐性がなかった40代女性(ADHD)にノリトレン10mgが合った経験をしている。また、2歳のときの脳挫傷によって正常圧水頭症になっている53歳男性にアトモキセチンが効果を示している。

それを処方した理由は、著者の頭に意識障害系という独特の分類わけがあるからである。薬の適応症というのは、応用範囲を狭くしたり、難治症例の治療の可能性、臨床医のイマジネーションをも奪ったりしていると言えなくもない。

 前述のように、LBDには臨床的に3種類がある。すなわち精神病タイプ、ATDタイプ、パーキンソン(PD)タイプである。典型的なDLBというのは、老人斑も出現して脳内アセチルコリンが経過することで認知機能が下がっているのであるが、PDタイプならドパミン欠乏の共通点があるという意味で、ADHD-DLBラインを形成しやすいと想像される。

 発達障害は、そもそも脳構造に特性があるわけだから、若いころから不眠があるとすれば、夜間のドパミン不安定(REM睡眠行動障害の原因)とも関連するのではなかろうか。8は、将来のレビー化が危惧されるADHDの2例である。
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36歳男性。明らかなADHDで治療中であるが、レストレスレッグズ症候群(RLS)がある。彼は長生きすればいずれDLBになる可能性を視野に入れておく必要がある。RLSは鉄欠乏、腎不全でもおきるが、それは除外されている。75歳男性で、甲状腺機能低下症だけで14年通院してきたが、最近ADHDだとわかった。そしてREM睡眠行動障害がみられる。

 

介護うつと虐待が同居する理由

 発達障害を勉強したあと、重要な症例との出会いがあり、その家庭の病理が手に取るように理解できたことがある。

コウノメソッドでは、患者の周辺症状を陽証と陰証に分けて、抑制系と興奮系をそれぞれに処方することを正攻法としている。ところが、陰証と陽証が同居した患者が、認知症圏にも精神病圏にも存在し、前者にはADHD-DLBライン、後者には非定型うつ病における怒り発作などがあげられる。

陽陰が同居する理由は、発達障害で説明がつくことが多い。すなわち、発達障害にはストレス処理工場である扁桃体の漸弱性があり、常にうつ状態(陰性)になりやすい構造となっている。また、調整系神経伝達物質であるセロトニンの機能不全があるため、衝動性や怒り(陽性)がおきやすいのである。

このような状況では、常に抑制系(クロルプロマジン)を低用量使いながら、患者の生きづらさや体調不良、食欲不振に対して必要最低限の興奮系(スルピリド、セルトラリン、パロキセチンなど)を出し入れするとうまくいく。

認知症になった肉親が、そもそも発達障害であると介護抵抗をおこすため、HDS-Rスコアが高くても介護しにくい患者になる。それを介護する子供も発達障害である可能性が高いため、介護うつになりやすい。それを救うのが医師の的確な処方(認知症に対する抑制系)である。コウノメソッドの「介護者保護主義」は、まさにこのようなケースに必須である。

他責的うつ7、という概念がある。他人のささいな言動を非難だと否定的に受け止めて、うつ状態になることである。ASの場合、相手の気持ちが悟りにくい発達障害であるために、このような二次障害になりやすいものと想像される。

ADHD-DLBラインは、このような発達障害家系の患者・介護者関係の理解に教科書的な勉強材料になる。そして、想像力豊かに在宅介護の困難性を察知すれば、初診時からその家庭の危機を一気に救うことができるようになる。

さらに、最近介護施設で職員が利用者を虐待し、不幸にも殺人に至ったケースのみが報道されるが、日常的に増加している可能性がある。このような場合、加害者だけが責められるが、実は被害者が発達障害からくる介護抵抗を示したのがきっかけになっていなかったかという根本的な原因を調べないと再発予防にはならない。

すなわち、発達障害から強迫神経症、不安神経症となった利用者が、スタッフが手薄な深夜にナースコールを執拗に鳴らせば、誰でも怒りがこみ上げるであろう。スタッフがASであればなおさらである。

老人施設には、必ず非認知症がいる。多くはASで子供が面倒を見たくないケースが多い。ASである根拠は海馬萎縮がなく、HDS-Rスコアが25以上で、クロルプロマジンを飲ませないと集団生活になじまないことである。

やるべきことは、このような利用者の陽性症状を鎮めることにつきる。AS基盤の認知症にドネペジルを処方してはいけないし、日頃からチアプリド、クロルプロマジンを処方すべき利用者を認識することが肝要ではなかろうか。

悲しい事件がおきるたびに、著者は被害者がどのような医学的状態であったかということに思いをめぐらせるのである。

 

 

文献

1)  河野和彦:認知症と発達障害の医学的、社会的関係。認知症治療研究会誌 2018; 5(1):48-61.

2)    Golimstok A et al.: Previous adult attention-deficit and hyperactivity disorder symptoms and risk of dementia with Lewy bodies: a case-control study. Eur J Neurol. 2011; 18(1):78-8

3)    Gambogi LB et al.: Long-Term Severe Mental Disorders Preceding Behavioral Variant Frontotemporal Dementia: Frequency and Clinical Correlates in an Outpatient Sample. J Alzheimers Dis. 2018; 66(4):1577-1585.

4)    河野和彦: レビー小体型認知症<改訂版> 即効治療マニュアル。フジメデイカル出版、2

5)    Mueller C et al.: Survival time and differences between dementia with Lewy bodies and Alzheimer's disease following diagnosis: A meta-analysis of longitudinal studies. Ageing Rea Rev 2019; 50: 72-80.

6) 岩橋和彦:大人の“かくれ発達障害”が増えている。発達障害は万病のもと!法研、2017

7)    片田珠美:高学歴モンスター 一流大学の迷惑な人たち。小学館、2018